LUCAS MUSEUM|LUCASMUSEUM.NET|山本容子美術館


CAFE DE LUCAS


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ルナ+ルナ

いまや、立体作品の展示の場は室内から野外へと広がったばかりか、ある一帯に建築的に設置したり、気象や大地の様相も作品の一部にしたりと、あらゆる領域に拡張している。見る側が気軽に立ち寄れたり、何らかのストーリーを感じとるような場所と方法を選ぶのが、作家や企画者の腕の見せどころだともいえる。その意味で、とても印象に残っている2つの野外彫刻展がある。
 1つは1994年8月、マドリッドを訪れた際に偶然遭遇したフェルナンド・ボテロFernando Botero(1932‐)の大型野外彫刻展「Botero en Madrid」。マドリッド市街の中心部を南北に貫く遊歩道(パセオ)のうち、コロン広場からシベーレス広場までのレコレートス遊歩道(約600m)に、21点のブロンズの大型彫刻が並んでいた(*15)。
 この遊歩道(パセオ)は片側3車線の大通りに沿って伸びる緑地帯の中に歩行者用の道路があるのだが、木々が鬱蒼と茂っているため、公園の中を歩いているような感じだ。国立考古学博物館へ向かう途中で展示案内ブースが目に入った。彫刻の配置図をくれる仮設のその箱が1つあるだけで、そこは展覧会場の入口に変わっていた。とくに柵を設けなくても、ボテロの作品が並ぶそこから先の遊歩道が一つの展覧会場に変化していることにあらためて驚いた。
 コロンビア出身のボテロは画家として出発し、空気をはらんだように膨らんだ人物や動物を描くことで知られているが、それがそのまま立体化かつ巨大化した彫刻を野外の緑の中で見るのは清々しい。深呼吸をするたびに自分の身体もふわりと膨らんで、夏の空に吸い込まれてゆきそうだった。テーマと設置場所がぴたりと重なった素晴らしい例として記憶に留めたわけだ。
 またもう1つは、1995年10月、ニューヨークのパーク・アヴェニューで、やはり通りがかりに見たバリー・フラナガンBarry Flanagan(1941‐)の展覧会である。知人の運転する車に乗ってミッドタウンを北上していると、突然、中央分離帯をブロンズの野兎たちが軽やかに跳んでゆくのが見える。フラナガン作品だとすぐに気づき、車を止めてもらって戻ってみたら、54丁目から59丁目までの間で野外展覧会が開かれていたのだった(*16)。
 そのとき発見したのは、ものには見るべきスピードがあるということだ。どうやらそこでは車で通行しながら見るように作品配置がなされていたらしい。作品と作品との間隔のせいで、歩いて見て回るのでは、跳んだり立ち止まって考え込んだりする野兎の動きが途切れてしまう。それが車のスピードで見ると、アニメーションのように連続して野兎が現れ、新たなおもしろさが味わえる。
 どちらの展覧会も、作品はどこにでも設置できる。けれども、それにはまず作品を取り巻くさまざまな人々、見る側、見せる側双方の作品への思い入れが必要だと実感した。

 

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*15 このようなボテロの大型野外彫刻展はパリのシャンゼリゼ大通り(92年)で成功を収めて以来、ニューヨーク(93年)、ヴェネツィア(03年)、ベルリン(07年)などでも開かれている。


「小鳥Pájaro」(1992年、240×277×245cm)に始まり、「女Mujer」(1989年、314×125×
104cm)、寝そべった姿の「鏡を持つ女Mujer con espejo」(1987年、83×350×125cm)、立像の「男Hombre」(1994年、314×114×
90cm)と、ブロンズの大型彫刻が並ぶ


会場であるレコレートス遊歩道の彫刻設置場所を示した案内板

*16 〈野兎〉はフラナガンの彫刻作品の代表的なモチーフ。野性もあらわに飛び跳ねているものと、2本足で立ち上がってスポーツなどをしているものがある。
 このような野外展覧会は、最近では2006年6月~9月にダブリンで開かれている(「Barry Flanagan on Dublin's O'Connell Street」)。オコンネル橋を起点に、オコンネル通り、パーネル・スクエア・イーストを経てダブリン市立ヒュー・レーン・ギャラリーの前庭に至るまでを会場に、「野兎と鐘Hare and Bell」(ブロンズ、1988年、350.5×182.9×
274.3cm)など10点の作品が展示された。なお、それと同時期に、アイルランド近代美術館では、フラナガンの彫刻とインスタレーションの双方を展示する回顧展を開催した。

 

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