『かわいい魚屋さん』2000年 ソフトグランド・エッチング、グワッシュ / 紙 20×16cm  ©️Yoko Yamamoto


Artist's Notes:
♪かわいいかわいいさかなやさん という出だしの音符の連なり方を見ただけで、テンポの速い、軽快な歌だというのがわかる。天秤棒を担いだ魚屋さんの坊や(※左)の歩幅で、その弾んだ感じを表してみた。ままごと遊びをしている少女のひとりは、「うれしいひな祭り」でも描いた昔の人形をずっとおんぶしている。下の「お家」に寄った魚屋さんは、右手に大鯛、左手に小鯛を持ち、下ろした桶には赤い蛸と青い鯖(※右)。♪おおだいこだいにたこにさば なのである。幼い頃から、祖父の寿司店のある大阪の黒門市場近くで育った私にとって、魚は身近な存在だった。

     


子供の頃は親戚の集まりが多かった。だから、従兄たちともよく顔を合わせていた。
その中のひとり三つ年上のヤスタカちゃんは祖父の創業した鮨屋で修行をし、銀座一丁目で、のれん分けした鮨屋を継いだ。
三十代で関西から東京に出ていった私はヤッチャンのお店のカウンターの隅でひとり酒をするのが好きだった。子供時代の共有のおかげで昔話しや親戚の様子を話題に出来た。その時ヤッチャンは必ずだまって「鮪の赤身の漬けの海苔巻き」と「酢〆めの鯵の紫蘇巻き」を出してくれた。私の好物を知っていた。

ある時、なぜ私は鮪の赤身が好きなのかを母に聞いたことがある。少し鉄の香りのする赤身をトロの部位より好きなのが不思議に思える年代になった時のこと。
すると母は「それはそうでしょう。あなたの離乳食は鮪の赤身、小さく柵切りした赤身をチュウチュウと吸っていたのよ」
祖父が与えた鮪の赤身と祖母が酢〆めした鯵が好物になったという種明かしは、大家族の嬉しい証拠なのです。



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