LUCAS MUSEUM|LUCASMUSEUM.NET|山本容子美術館


CAFE DE LUCAS


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ルナ+ルナ

その背景には、幼少期にサーカスや花火、プラーター公園の見世物小屋、ザルツブルク・ヘルブルン宮殿の庭園の仕掛け噴水、ハプスブルク家のヴンダーカンマー(*15)の奇妙な蒐集品といったものに目を奪われ、ココシュカOskar Kokoschka(1886‐1980)の舞台美術やモーツァルトの『魔笛』に魅せられた体験があるという。へラー自身にとっても、スペクタクルとアートとは同じく心躍るものなのだ。その後もオーストリア・チロル州に〈スワロフスキー・クリスタルヴェルテン〉をヴンダーカンマーとしてプロデュース(1995年)、パリ・シャトレ座でのジェシー・ノーマンJessye Norman(1945‐)のモノオペラの演出と舞台美術(2002年)や、サッカー・ワールドカップ・ドイツ大会2006のアートイベントなどを手がけている。

〈ルナ・ルナ〉に参加したアーティストたちは、依頼がなされたとき、もちろん遊園地の楽しさを思い浮かべたことだろうが、何よりヘラーの同じアーティストとしてのイニシアティヴに賛同したからこそ、喜んで作品を提供したのではなかったろうか。企画の準備段階以前に亡くなっているソニア・ドローネの門は、実は1977年にミュンヘンのオリンピア公園を会場にした〈幻想万博〉で子どものための劇場をつくろうと、へラーがアーティストたちに依頼したものの1つだという。そのプロジェクトが資金的な問題で頓挫した後、10年の歳月を経て、移動美術遊園地〈ルナ・ルナ〉の入口を飾る形で日の目を見たのだった。

作品集『ルナ・ルナ』を知った数年後、「婦人公論」の表紙絵の1点として「門をつくった女 ソニア・ドローネ」(*16)を描いた。〈ルナ・ルナ〉の門にソニアの腕を溶け込ませることによって、門=無機物と肉体=有機物を1つにつなげた。色と形、門と肉体、赤と青など、対立するにせよ同調するにせよ、隣り合う2つの異質なものの調和を意図したのである。ソニアの指はシンボリックに両手とも〈2〉を示している。ソニアが〈同時 的〉ドレスや〈同時的〉スカーフなどをデザインしたように、ここでのソニアの洋服の柄も門と同じく〈同時的〉にした。1つの図案(パターン)が洋服の柄であり、門の装飾であるわけだが、この図案はそもそも両方ともソニアが描いた絵画である。ソニアは振幅をもつ空間としての絵画を身にまとっているのだ。背景は夜空。芝生も夜の色をしている。


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*15 ルネサンス以降、ヨーロッパの王侯貴族らは、美術品から動物の剥製まで種々雑多な品々を蒐集して、宝物館ともいうべきヴンダーカンマーWunderkammer(ドイツ語で〈不思議の部屋〉〈驚異の部屋〉の意)をつくった。

*16

門をつくった女 ソニア・ドローネ

山本容子
「門をつくった女 ソニア・ドローネ」1996年
エッチング+手彩色、22cm×11.5cm

 

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