LUCAS MUSEUM|LUCASMUSEUM.NET|山本容子美術館


CAFE DE LUCAS


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ルナ+ルナ

ハンブルクのドイツ鉄道ダムトーア駅の北側に横たわる広大な緑地〈モーアヴァイデ〉に設置された〈ルナ・ルナ〉のソニアの門をくぐると、左手にケニー・シャーフKenny Scharf(1958‐)のチェーンタワーがそびえ、右手にはリキテンシュタインRoy Lichtenstein(1923‐97)のミラーハウスがある。この鏡の迷路に流れる音楽はフィリップ・グラスPhilip Glass(1937‐)のオリジナル曲だ。周囲に樹木が生い茂る長方形の広場の中ほどに建つのは、ホックニーDavid Hockney(1937‐)の〈魔法の木〉の館。内部では魔法の音楽としてカラヤンHerbert von Karajan(1908‐89)指揮ベルリン・フィルの演奏によるウィンナ・ワルツが聞こえる。その先にバスキアJean-Michel Basquiat(1960‐88)の観覧車とキース・ヘリングKeith Haring(1958-90)の回転木馬が並び、右手奥にはダリSalvador Dalí(1904‐89)の〈ダリ・ドーム〉が控える。ローラン・トポールRoland Topor(1938‐97)のお化け屋敷〈トポラマ〉もある。

想像するだけでも興奮する光景ではないか。引幕のかかった手品のステージなど遊園地にはおなじみの遊戯設備(アトラクション)や、顔を出して記念写真を撮るパネル、カフェ、お菓子の屋台、トイレ、フラッグ、ポスター、遊園地の移動には欠かせないトラックまでを、オーストリアやドイツを始めとするヨーロッパの現代アーティストたちが手がけている(*14)。多種多様なポスターの中には、ティンゲリーJean Tinguely(1925‐91)の作品もある。

制作風景のドキュメント写真を見ると、現地で遊戯設備のファサードに絵を描いたり、立体作品を仕上げたりする人もいれば、インスタレーションや精巧な建物の模型を自らのアトリエで制作した人もいて、参加の形態はさまざまだが、誰もが嬉々として取り組んでいる様子が見てとれる。すでにこの世にいないアーティストたちの仕事ぶりが記録されているという意味でも興味深い。

遊園地である以上、立体作品の遊戯設備は眺めるだけでなく、乗ったり中に入ったりして遊べるし、場内では手品や大道芸も見られる。夜になると華やかなイルミネーションが灯り、花火も上がる。子どもたちは美術作品が並んでいるとは思わずにやってきて、見たこともないような形の木馬や風変わりな絵が描かれたファサードをおもしろがったことだろう。誰がつくったのかと大人に尋ねたかもしれない。アートがまさに動いて観客の心に何かを訴えかける〈ルナ・ルナ〉は、子どもから大人までが、ジャンルもスタイルもさまざまな現代美術と驚き楽しみながら出会える場だったのである。観客とアートとの幸福な関わりに配慮がなされたすぐれたグループ展だといえる。

アンドレ・ヘラーはウィーン生まれ、パフォーマンス・アーティスト(ウィーン・アクショニスト)にして、サーカスやヴォードヴィルなどの脚本・演出、アートイベントや空間のプロデュースに携わり、歌手でもある多才な人物だ。〈ルナ・ルナ〉では芸術総監督を務めるとともに、自らも気球用の布でカフェを制作したり、手品を演じたりしている。

 

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*14 アーティストの中にはヨーゼフ・ボイスJoseph Beuys(1921‐86)も含まれている。へラーはボイスと1985年12月に知り合い、〈創造性と資本〉についての文章を依頼した。ボイスは翌年1月23日に亡くなったが、書き上げられていた手稿が作品集『ルナ・ルナ』に収録されている。

 

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