9 『おせんたくが好きなのね


©️Yoko Yamamoto


作家の三島由紀夫は、母親の産道を通った時の記憶があると言っていた。それから”自分”となったのだという。
私の場合は、このシーンから”わたし”になった。

それは、庭の隅に植えられたいちじくの木の下の水道のある場所だった。
水栓の下には少し大きめの金だらいがあり、色々なものを水洗いする場所。
裁縫の好きな母は、私のパンツを可愛い布で何枚も作っていた。それは私がよくおもらしをするからだった。
おもらしをすると”おしりペンペン”をされていたので、いちじくの木のそばはおそろしい場所だったが、
おこられないようにするために自分でパンツを洗っていちじくの木に干しておく方法を考えついた。
そしておしりは気持ちよく水につけて空を見ていた。
恐怖を回避して満足感にあふれていたその時、”わたし”だと思った!
いちじくの花盛りは、わたしの記憶の第一番目のシーンだった。

洗濯機には、水をしぼるゴムのローラーがついていた。
今の私は鉄のローラーで、銅版画を刷っている。
不思議なイメージの連鎖だ。